非常勤講師の環境改善に関する要望書 を公開いたしました

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要望書

2021年4月吉日

女性科学研究者の環境改善に関する懇談会(JAICOWS)

JAICOWS役員会役員有志

30年近く変化のない非常勤講師の地位改善について

  男女共同参画を非正規研究員にも

貴府省におかれましては、かねてより学術研究における男女共同参画の推進のためにご尽力下さっていることに心より感謝申し上げます。

JAICOWS(女性科学研究者の環境改善に関する懇談会)は、第20期以降第25期までの日本学術会議会員および連携会員、第15期~第19期研究連絡委員会委員の女性会員とそのOGにより構成される任意団体で、学術の世界における女性科学研究者の環境改善と、男女共同参画の推進のための活動を進めております。

福田康夫内閣総理大臣から安倍晋三内閣総理大臣にかけて積極的に尽力された「2020年までに指導的地位を占める女性比率を30%にすること」について、各省庁でも女性比率は上昇し、

日本学術会議では、その比率を達成し、現在会員における女性会員の占める割合は、37.7%まで上昇しました。

ただ世界ジェンダー・ギャップ指数における日本の位置は、2020年世界153カ国121位、2021年には世界156カ国中120位と、先進国最低であるばかりか、世界のボトムに近い状況です。  政治レベルでは国会議員(衆議院)に占める女性の割合が9.9%で193か国中166位、経済レベルでは上場企業の6割で女性役員0、女性役員がいるのは企業の6%という現状があります。

さらに金銭的底辺層に集中する日本女性の地位の低さが、日本のジェンダー・ギャップ指数の上昇を妨げていると思われます。特に100万円から200万円台のいわゆるワーキングプアに占める女性の割合が圧倒的に高いこと、女性一人親家庭や主婦の税金対策としての100万円の壁などが特徴的なものとして挙げられます。

アカデミーの分野では、助手、助教、准教授、教授へと上昇するに従い、女性の比率が激減すること、また大学教育の6割から7割という多数を占める「非常勤講師」の半数以上が女性である、ということとも関連しています。

いわゆる「高学歴ワーキングプア」と呼ばれる、修士号・博士号を持った教師たちが、正規の大学教授や准教授の、5分の1から10分の1の給与で働き、そのまま定年を迎えるに至っている人々も出てきています。

特に改正労働契約法による「5年を超える期間の有期契約労働者の無期雇用ないし正規雇用への転換請求権」の2018年施行や、2019年の「働き方改革」における正規・非正規を問わない

「同一賃金・同一労働」の提案は、実質的にはほとんどの大学で行われないまま、現在に至っております。

さらに2020年のコロナ禍により大学では大幅にオンライン化が進みましたが、大学の正規の教員や学生にはオンライン化の費用が適用されたものの、非常勤講師は多くの場合、オンライン機器の自己負担、時間負担の増大、採点の困難化や大学のコピー機や図書などが使えなくなる等、様々のさらなる負担を強いられたことが、判明しました。

つきましては、女性研究者、とりわけ大学の半数以上を占める非常勤講師(男女問わず)の環境改善、および正規教員との「同一賃金・同一労働」の導入を、是非ご検討いただきたく存じます。特に大学院で修士号・博士号を取りながら、年に100万200万で生活し、研究費用も賄えない日本の頭脳を支える研究者たちに対し、是非抜本的改革に取り組んでいただきたく、貴府省および御所轄の教育研究機関における施策全般について下記項目に関する要望を提出いたします。

なお、その際、男性非常勤研究者に対する施策の充実をも併せて要望いたします。

1.大学で修士号・博士号を取りながら、100万・200万円台で生活し、研究費や教育のための資料購入にも事欠く非常勤講師に対し、1)賃金改善、2)研究環境改善(科研費や出版助成の応募の権利)、3)大学の研究所研究員の肩書の賦与、等を諮って頂きたい。

2.非常勤講師の賃金(1コマ5000円から1万円以下、月2、5万円)を改善する。

賃金を、授業時間のみでなく、夏冬の採点や、教材準備期間にも配慮する。

3.非常勤講師の科研申請、出版助成申請を一律に認める。学術会議や省庁の尽力により原則科研申請は認められるはずだが、現状では大学の仕事量の増大等の理由により、認めない大学が多い。全ての大学で、非常勤講師の科研申請を認めるよう通達する。

4.コロナ禍でのオンライン化に伴う研究機器の購入費用の負担を非常勤講師にも認める。年間5万円の研究機器購入費など。大幅な時間増・負担増にも配慮する。

5.女性であるが故に雇用形態、評価、処遇などで差別を受けた場合、正規・非正規を問わず、外部の中立機関による不服申立制度(オンブズマン制度等)を確立する(内部では無視されるかさらなる弊害を被る場合が多い)。また不服申し立てをした場合に、その人物の立場が悪くならないよう配慮する。

6.男女を問わず非常勤講師に対するパワハラが顕著である。女性に対してはとくにセクハラが目立つ。就職や論文がかかっているため、拒めない・訴えられない。大学は教職員側を守ろうとするケースが多い。外部中立機関の相談先や、不服申し立て制度の確立が求められる。

7.奨学金返済への配慮(返済開始時期の延期ないし返済期間の延長、一定年数以上教えた人に対する免除の検討)。

8.保育所入所に対する配慮(非常勤講師は、勤務時間が短く正規雇用でないため、入所が困難。研究時間が取れない)

9. 正規雇用者・有期雇用者には、育児・介護休業制度が適用されるが、非常勤講師には適用されない。出産を契機に解雇されるケースもあるので、育児・介護休業制度が非常勤講師にも適用されることを強く求めたい。

10.コロナ禍でひとり親家庭への支援が打ち出されたが、男性一人親と、女性一人親では、賃金が大きく異なる。男性一人親の賃金が平均賃金とあまり変わらないのに対し、女性1人親の賃金は年間100万円程度しかない。女性一人親と子供への制度的支援が不可欠である。

 以上、一般的な非正規雇用者とも違った、非常勤講師独自の問題があります。

 大学院で修士号・博士号を取得した後、日本の大学教育の6割-7割を担い、日本の頭脳を支える非常勤講師が、低賃金・低保証でコロナ禍でも苦しんでいる実態をご理解いただき、賃金と制度の早急な改善を、強く要望いたします。                                                           

以上

JAICOWS 役員会役員有志

会長   羽場 久美子(日本学術会議元会員、青山学院大学名誉教授、神奈川大学教授)

副会長  伊藤 美千穂(日本学術会議連携会員、京都大学准教授)

事務局長 海妻 径子 (日本学術会議連携会員、岩手大学准教授)

幹事   浅倉 むつ子(日本学術会議元会員、早稲田大学・東京都立大学名誉教授)

理事   岩井 宜子 (日本学術会議元会員、専修大学名誉教授)

国枝 たか子(日本学術会議研究連絡委員会元委員、国際女性スポーツ学会会長)

袖井 孝子 (日本学術会議元会員、お茶の水女子大学名誉教授)

直井 道子 (日本学術会議元連携会員、東京学芸大学名誉教授)

廣瀬 眞理子(日本学術会議元会員、東海大学客員教授)