【メッセージ】2019 年、過去・現在・未来における JAICOWS の活動に向けて

 JAICOWS の創設者のひとりでいらした前会長(現顧問)の原ひろ子先生のメッセージにありますよう に、JAICOWS 設立のきっかけおよび名前の由来は、今から 24 年 7 か月前、1994 年(平成 6 年)5 月に 開催された日本学術会議第 15 期第 118 回総会において、「女性科学研究者の環境改善の緊急性について(声 明)」が採択され、女性研究者の重要性が指摘され、それが当時の新聞にも報道されたことによるものです。

しかし 15 期には 4 人いた女性会員が、16 期には島田淳子先生お一人になられる中、13 期から 15 期に 会員でいらした一番ヶ瀬先生が文化人類学研連委員原ひろ子先生にお声がけされ、JAICOWS を結成し、 会員の島田先生をサポートし、「長期的に日本学術会議、ひいては日本社会全体における女性研究者の地位 向上に尽力しましょう」という観点から、24 年前の 1995 年 1 月 5 日に設立総会が開催され、以後日本学 術会議の前・現会員と研連委員(現在の連携会員)有志で JAICOWS が発足しました。(JAICOWS とは、 女性科学研究者の環境改善に関する懇談会 Japan Association for the Improvement of Conditions of Women の略語です)

以後、JAICOWS は、多くの場合、総会を 1 月、研究会やシンポジウムなどを 5 月、ないし秋など年 2回から 3 回の会合を積み重ね、女子トイレのない日本学術会議にトイレを設置するところから始まり、女 性研究者の環境改善に向けて多くのシンポジウムを開催し、書籍刊行を行ってきました。その代表的なも のに、『女性科学研究者の可能性を探る』JAICOWS 編、ドメス出版、1996、『男女共同参画社会:キーワ ードはジェンダー』学術会議叢書 3 日本学術協力財団、2001、『ジェンダー問題と学術研究』原ひろ子ほか、 ドメス出版、2004 などがあります。

この 10 年間で男女共同参画の活動も発展し、会員・連携会員の数は段階的に年を追って増え、2017 年10 月からの日本学術会議第 24 期では、会員 206 名中女性会員 68 名 33.0%、連携会員 1879 名中女性連携 会員 541 名、28.7%、総計 609 名と飛躍的発展を遂げました。さらに会長・副会長 4 名のうち 2 人が女性 と、政策決定においても重要な役割を果たしています。学術会議の女性会員・連携会員各氏のご尽力、各 部署の方々のご活躍に、心から感謝を申し上げます。

他方で、世界における日本社会の男女平等度の評価基準とされる世界経済フォーラム(WEF)の「ジェ ンダー・ギャップ指数」を見ると、その低さのみならず、年々順位が下がっていっている現状に唖然とせ ざるを得ません。

日本の「ジェンダー・ギャップ指数」は、2015 年 101 位、2016 年 111 位、2017 年 144 か国中 114 位 と毎年順位を落としています。後ろにはあと 30 か国しか存在しません(内閣男女共同参画局、共同参画2018 年 1 月)。この調子で 2 年に 13 ずつ順位を落とすと、6 年でボトムに達します。

WEF のジェンダー・ギャップ指数は経済、教育、政治、健康の 4 分野で分析しランク化しています。日 本は健康が 1 位、教育の識字率も 1 位にもかかわらず高等教育の進学率が 101 位。政治は 123 位と前年比20 位も下がりボトムに近い状況です。 経済は 114 位とやはり専門職が少なく、依然政治経済が最下位に 近く全体を引き下げています。政治経済における女性の地位と環境の大幅な改善が求められます。

アイスランド、ノルウェー、フィンランドがトップ 3 を占めている背景には、教育、健康とともに、国 会・地方議員へ 4 割~5 割の進出度、経済分野における専門職登用や福祉の充実などがあげられ、それらが 安定的な世界トップを誇る原因であるといえます。

しかし学術会議や官公庁などのレベルでは今や 2020 年までに管理職の女性割合を 3 割にするという目標 がほぼ達成されつつあるものの、2018 年の総選挙の結果、安倍内閣における女性閣僚は 20 名中 1 名、国 会議員における女性の数は、2017 年で 47 名、ようやく 10.1%であり、欧州 3~4 割台にははるかに及びま せん。何が女性の政治経済進出を妨げているのでしょうか。パワハラ、セクハラも日常的で、男性のハラ スメントを擁護する文化もなかなかなくなりません。

過去のデータを見ると平成 12 年 7 月で衆議院定数 480 名中女性は 35 名(7.3%)、平成 13 年 8 月で参議 院定数247名中女性は38名(15.4%) です。衆議院ではそれ以前、実に50年間にわたり1~2%台を推移し てきました。女性が議員になれない背景には議員立候補の際の拠出金の多さや、当選時ではなく立候補時に職をやめねばならない、夜の接待や地方回りなど、女性に限らず一般市民が出にくい構図、世襲議員に 有利な現行制度があり容易に改革は行われません。これらを変えない限り新興国・後発国にも追い越され ていく日本政治の古さと大きく関連しているといえます。

 他方でボトムにおける女性も、『学術の動向』(2018.11)に書いたように、年収 200 万円以下の多くが女 性であり、子供を抱えるシングルマザーの 6 割が月収 10 万円未満、大学院卒・博士号取得者の 25%以上、 大学非常勤講師の 68%が 200 万円以下、56%が 150 万円以下、うち女性の占める割合は非常勤講師(アン ケート)では 54%(緊急!非常勤講師アンケート結果)という数字が出ています。

課題は山積みですが、学術会議における会員 68 名、連携会員 541 名とも連携しながら、女性研究者の環 境改善に関する地道な活動を、皆様とともに継続していきたいと考えております。

2019 年 1 月の総会では、ニューズレターにありますように、大学教員の過半数を占める大学の非常勤講 師の大変な実態、2018 年に世界でも問題となった性暴力対策の法制化などについて、現状と改革の方向性 を報告していただきます。国連の SDGs(誰一人取り残されない)に倣い、地道な改善活動を社会のため に、女性研究者のために、積み重ねていきたいと存じます。

皆様のご協力を是非よろしくお願いいたします。

羽場久美子